「静岡県が率先して南アルプスに残土処分適地を用意しろ?」って叫ぶ奇怪な記事

Yahoo!ニュースに、
PRESIDENT Online
静岡県の仕事もJRになすり付け…リニア妨害のためなら「残土置き場」にもケチつける川勝知事の"知事失格”

https://news.yahoo.co.jp/articles/72d4a77defa47e202ecfc4f735bf76a7a5d7989c

という奇怪な記事が掲載されていました。執筆者は小林一哉氏。

以下、てきとうにツッコミを入れてみます。

<1ページ目>

リニア中央新幹線のトンネル工事で出る残土置き場としてJR東海が示した建設予定地について、静岡県の川勝平太知事が「深層崩壊などのリスクがあり不適格だ」と主張している。ジャーナリストの小林一哉さんは「深層崩壊などへの対策は行政の仕事だ。それなのに川勝知事はJRに責任をなすり付けようとしている」という――。

深層崩壊という自然現象についての話題なのに、どうして専門家ではなく正体不明の「ジャーナリストの小林一哉さん」に話を聞くのでしょう? 



冒頭から奇妙であります。

いつものことながら、全体として小林氏の主張には無理があると感じます。特にタイトルにもある「静岡県の仕事もJRになすり付け」というところですね。

<1ページ目>
ところが、深層崩壊のためにツバクロ置き場は不適格だとする川勝知事のデタラメな理由に、複数の女性記者が「深層崩壊があるとその先にはどのようなリスクがあるのか?」「深層崩壊の危険性に対して静岡県の対策をしているのか?」など正当な質問を繰り出して厳しく追及した。


<4ページ目>
共同記者は「JR東海の残土置き場を建設することで、深層崩壊の危険性がより高まることを強調するならば、残土置き場うんぬんの話ではなく、その対策を立てる必要があるのではないか」と突っ込んだ。

<5ページ目>
地震、豪雨の発生時に、深層崩壊が南アルプスで起こり、天然ダム(河道閉塞)等の崩壊する可能性をいくら議論しても、「水の供給や水質、生態系などに甚大な影響が出る」(川勝知事)ことによる責任と役割を担うのは、JR東海ではなく、河川管理者の静岡県である。

 そんな簡単なことも静岡県行政の最高責任者である知事が承知していないのだ。



ずいぶんと変わった御認識の記者がいるものです。南アルプス山中に人が住んでいるとでも思っているのでしょうか。

そして訳の分からないことを騒いでいるのは小林君、あなただよ

現状の燕沢周辺は無人地帯ですから、そこで斜面崩壊が起きても、直接に人や財産を損傷するおそれは低い。

したがって現在、もし山崩れが起き、自然環境が一変したとしてもそれは自然現象です。崩壊地にはフジアザミやイタドリ、ヤシャブシやヤマハンノキのように不安定で土壌養分の乏しい環境に適応した植物が進出し、開けた環境を好む動物が集まってくることでしょう。それは遠い過去から延々と繰り返されてきた自然の営みに過ぎません。
ヤシャブシ.JPG
【ヤシャブシ。崩壊地に育つ代表的な樹木。窒素固定を行う根粒菌と共生するためやせ地でも生育できる。安倍峠にてブログ作者撮影】

そのような場所で県が大々的な治山工事を行ったら、目的もなく自然破壊を続ける無駄な公共事業に他なりません。そんな行為を誰が望んでいるのでしょうか。

直接的に水害に結びつくおそれのある安倍川の大谷崩れとか、土石流が集落を襲いかねない富士山の大沢崩れとか、地すべりが交通を遮断しかねない由比の地すべりなどとは立地条件が違って、燕沢は現状維持で構わない場所というわけです。

実は、そのことは小林氏も御認識されているようで、3ページ目には「万が一、残土置き場が崩壊するような事態になったとしても、土石流等は最悪でも畑薙第1ダムでせき止められる。つまり、「下流側の影響」と言っても、人的被害や建物損壊などは全く想定されないのだ。」と書いてあります。

それなら、どうして「人的被害や建物損壊などは全く想定されない」場所で、県が対策をしておかなければならないのでしょう?

話は全く逆で、本来なら手を付けなくてよい山奥にリニア残土を置くから対策が必要になるんじゃないのでしょうか?

その場合に費用負担するのは開発業者(JR東海)ではないのでしょうか。


小林氏の主張が論理破綻していて意味不明なんだけど、ようするに「静岡県が率先して南アルプスに残土処分適地を用意しろ」ってことなのでしょうか?



で、そのほかにもおかしな点はいろいろ感じられます・・・

<2ページ目>
■川勝知事が「不適格」のよりどころとするマップ
■より精度の高い別のマップがあるのに…


のところ。

小林氏が深層崩壊マップの取扱説明書(?)をよく読んでいないのではないかと感じます。

まず国土交通省のホームページ「深層崩壊に関する全国マップについて」では、次のように説明されています。

このマップは、簡易な調査により深層崩壊の相対的な発生頻度を推定したものであり、各地域の危険度を示す精度のものではありません。
https://www.mlit.go.jp/report/press/river03_hh_000252.html

また、深層崩壊マップは、土木研究所資料「深層崩壊の発生の恐れのある渓流抽出マニュアル(案)」に基づき、航空機から撮影された空中写真や地形図、地質図等を用いて机上作業で作成されたものであり、現地調査を伴ったものでありません。、
https://www.pwri.go.jp/team/volcano/tech_info/manual/h20_fy2008/dosi4115.pdf

そのうえ、マップでは次のような注釈が添付されています。
深層崩壊マップ 渓流別凡例.jpg

あくまでも投票化区域内における相対評価を行っているものであり、他エリアの評価区域図において同じ評価レベル結果であったとしても、危険度が同程度であるということを示すものではありません。

渓流レベル評価は、複数の斜面を有する一定面積(約1㎢)の渓流毎に、相対的な深層崩壊の発生危険度を評価したものであり、個別の斜面の危険性を判断するものではありません。



ざっくりとまとめると、マップでいう危険度とは、崩壊の起きやすさを指し示す指標の数の多少で評価されたものです。
深層崩壊抽出方法.jpg
【土木研究所資料「深層崩壊の発生の恐れのある渓流抽出マニュアル(案)」より】

現在は明瞭な崩壊が生じていない場所について、今後発生する可能性を評価したものと考えるべきでしょう。マップからは、現在崩壊が起きている場所が安定しているという見解は導き出せません。

理屈を並べても分かりにくいので、渓流別マップを見てみましょう。
深層崩壊マップ 渓流別.jpg

燕沢の発生土置き場候補地周辺をクローズアップし、実際に上空から撮影された写真とを見比べてみます。

深層崩壊マップ 渓流別2.jpg

マップと空中写真とを見比べると、危険度の高い低いと、崩壊の有無とは一致していないことが一目瞭然です。

例えば、燕沢の対岸と背後は、マップでは「相対的な危険度のやや低い渓流」に区分されていますが、実際には巨大な崩壊地があります。

燕沢背後(南東側の斜面上部)の崩壊地について、1976年に撮影された空中写真と2014年撮影のGoogleEarth画像とを見比べてみると、確実に崩壊は拡大していますね。「相対的な危険度のやや低い渓流」といっても実際には崩壊が拡大中なのです。
Tsubakuro-change.jpg


深層崩壊マップ云々の前に、燕沢候補地は巨大な崩壊地に囲まれている現実から目を背けるべきでない!


燕沢の巨大盛土の問題点は、発生土が崩壊・流出することよりも、むしろ周辺で発生した土石流や深層崩壊をため込んでダムアップしやすくなることが指摘されるべきではないでしょうか。現状だったら「単なる土砂崩れ」だったのが、川をふさいで「天然ダム」になってしまうかもしれない。そうなれば河床の荒廃の程度が従来よりもひどくなってしまう。盛土という人工物が加わることで、単なる自然現象とは言い難くなってしまうわけです。

それに、直接的に森林や河原を破壊することで動植物が失われるわけだけど、その評価だって全然行われていません。高さ70m、幅300m、長さ500mの盛土による景観の変化だって無視できるものではないでしょう。

5 燕沢平坦地河畔林.jpg
【巨大盛土予定地の林内】


・・・それにしても、こんな記事を真に受ける人がいるのだろうか?



この記事へのコメント

2023年08月26日 11:23
はじめまして。
私は「力石」の調査などをしています雨宮と申します。
全くお恥ずかしいことですが、読者から「静岡県知事はおかしな人ですね」と言われて、今までスルーしてきたリニア問題に慌てて目を向けました。
即席の勉強で心元ないのですが、あまりにもひどい誹謗中傷に黙っていられなくなり、少し拙ブログに書くことにしました。
勝手ながら明日のブログに、貴ブログ記事もご紹介させていただきました。訂正などありましたらご連絡をいただければ幸いです。
ブログ主
2023年08月26日 22:18
拙い文章ですが、お読みいただきありがとうございます。

ここ2年ばかりメチャクチャな記事が粗製乱造(といっても執筆者は2~3人)されていますから、やはり世論が誘導されているのでしょうね。

ただし書かれている内容はほぼデタラメですので、責任ある立場の人が鵜呑みにしてしまうと、経済産業副大臣のように逃げ回る羽目に陥ってしまいます。

世論誘導に成功(?)している反面、フェイクニュースをばらまくことで自滅している感じもしますね。
柴橋
2023年08月27日 11:12
プレジデンドの記事もノーチェックというか、本当に玉石混淆ですね。少し前に、”彼ら”の記事ではないですが、東洋経済新報社の記事の内容が訴訟沙汰になっていました。。
 でも元はと言えば、リニアと地元住民との対立も、今回のフクシマ処理水放出に伴う混乱も、全て日本政府の判断の遅れが招いていること。ネトウヨレベルの政治家に国難は解決できるのでしょうか。国鉄分割民営化の惨状については、今度は島根の丸山知事がお怒りです。本当に何のための民営化だったのか…。

大量輸送しかやらないなら「JRはJ(ジャパン)を使う資格はない」丸山島根知事、赤字ローカル線の存廃議論を危惧
8/24(木) 11:33配信

 JR西日本の赤字ローカル線存続の要件として大量輸送機能を果たせるかどうかが挙がっていることに対し、島根県の丸山達也知事が23日、地方を含め日本を鉄路で結ぶことがJRの存在意義だと強調し「大量輸送しかやらないなら、JRはJ(ジャパン)を使う資格はない」と述べた。


 丸山知事は、都会地の黒字路線の収益で地方の赤字路線を穴埋めする内部補助を前提にJRが発足した経緯があるとの認識を示し「日本をくまなくネットワークで結ぶのを前提とするから、ジャパン・レイルウェイズ(JR)だ。それをやるつもりがないなら、Jを返してくれ、と言わなきゃいけない」とした。

 同日、松江市内であった中四国サミットで、広島県の湯崎英彦知事の指摘を受けての発言。湯崎知事は、JR西との協議で存廃議論の論点が大量輸送の機能を果たすかどうかに移っている点を危惧し「全国的なネットワークの在り方、JRの責任をしっかりと確認し、中四国(の県)で要請していく必要がある」と指摘した。

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大前研一メソッド(プレジデンドオンライン)
2021年4月5日
福島原発が抱える3大問題——原子力人材が枯渇する前に解決せよ
https://www.ohmae.ac.jp/mbaswitch/_komaemethod_fukushima_threeissue/

なぜこれほどの使用済み核燃料を保有しているかと言えば、政府・自民党がいざとなったら90日以内に核兵器を製造できるニュークリアレディ(核準備)国を目指していたからである。使用済み核燃料からプルトニウムなどを抽出して再利用するプルサーマル技術やウランの利用効率を飛躍的に高める高速増殖炉などの開発政策は、「資源の有効利用」を謳うたいながら核兵器の燃料であるプルトニウムを実は国内に蓄えるための口実でもあったのだ。日本は(長崎型の)核爆弾を1万発ぐらい造れるプルトニウムを保有していると言われている。

~中略~

率直に言って、最終処分場は福島第一原発がある双葉町と大熊町にするしかないと、私は以前から考えている。原発用地は返すときには廃炉にして施設を解体し、更地に戻して返すことになっている。しかし爆発事故を起こした原子炉の敷地内などは、ほぼ永久に居住不可能と思われる。汚染状況からして更地に戻して返せるのは100年後のことだろうし、返してもらっても地元としても持て余すだけだ。


であれば、住民には手厚い補償をし、周辺も含めて国有地として国が買い上げるべきではないか。そこに最終処分場を造るのであれば比較的、合意も得やすいと思う。


逆の言い方をすれば、一進一退の苦しい廃炉作業を続けているのは原状回復して返す契約があるからで、国が買い上げてしまえばチェルノブイリのように石棺にして永遠のセキュリティエリアにしまうという考え方もある。

柴橋
2023年08月27日 17:22
ウランの埋蔵量があと100年?170年?(いずれにしても500年も1000年もはないらしい)という解説もある中、老朽化原発にムチ打って、崩落地だろうが、河川の水を枯らそうが、生き埋めになろうが、リニアを走らせろという奇怪な日本政府。

リニアでもウラン鉱床を掘り当てることが懸念されていますが、今争点となっているトリチウムの危険性について腑に落ちないことがありました。

その昔、NHKの自然科学番組で『地球大紀行』というのがあり、先日、深層海流の回を再視聴したら、深層海流の発見はトリチウムがきっかけだったことを知り(当時はまだ子供だったので理解できていなかったみたいです)、びっくり!
 冷戦時代だった当時、米軍は核実験を繰り返していたため、海洋でのトリチウムの流れを調べる必要性に迫られ、その過程で深層海流を発見したとのこと。つまり、トリチウムは自然界にも膨大にあり、半減期も12.3年と短いから安全とはいえなくて、やはり一定以上の濃度になると生物濃縮などの心配があるとの認識が当時からあったということでしょうか?番組ではそこまで解説されていませんでしたが、う~ん、国防や経済活動という妄想のために科学的な安全性がないがしろにされる事例が後を絶ちません。。どなたかこんな人類につけるクスリをお持ちの方はいませんか?

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深層海洋循環の存在が明らかになった経緯
https://ippjapan.org/archives/1590

 深層海洋循環のような流れの存在は、米ソ冷戦の中、1960年代に行われた北大西洋での水爆実験がきっかけで明らかになってきた。水爆実験で発生するトリチウム(三重水素)は雨水に取り込まれ海洋中に入るが、重水素はもともと海洋中にはほとんどない化学種なので、この流れを追いかけることで海洋中の水の循環がわかることに気付いたのである。1972年から1981年にかけて、トリチウムの動きを追跡した海洋循環の観測が行われるようになり、コンベヤーベルトに例えられる深層海洋循環が存在することがわかってきた。