高標高部よりも沢の源流部

8月30日に開かれた国土交通省の第25回リニア中央新幹線静岡工区 有識者会議では、主に高山帯での調査結果についての報告がなされました。

この会議でJR東海からは、地下水位が低下しても高山帯の植生には影響が出ないと考える旨の説明がありました。

一般論としては、この見解についてはその通りだろうと思います。陸生植物は土壌中の水分を根から吸収して生育していますが、土壌水分は降水や雪解け水によって涵養されますので、地下水が下がったとしても影響は薄いと思われます。

ただ、一般論が当てはまらない場所もあるだろうと思われます。

特に懸念されるのが沢の源流部。

そもそも高山帯の土壌水分を調査する必要に迫られたのは、もともとはこの図がきっかけ。
20年後地下水位.jpg
第5回有識者会議 JR東海作成資料「【3-2】 当社が実施した水収支解析について(素案)」より

この図で、地下水位が大幅に低下すると予想された範囲が、国立公園区域の高山植物群落と重なっていたためです。
20年後地下水位 - コピー.jpg

それで、高山地帯での調査は次のように国立公園区域内とその周囲で実施されました。
高山帯での調査.jpg
(これは第18回有識者会議に提出された調査計画。現在までに実施された調査内容については第25回有識者会議資料をご覧いただきたい)


ご覧の通り、標高2600mぐらいより上の稜線部に調査地点が集中しております。


一方で、河川環境のモニタリングについては次のように実施、または計画されています。

河川モニタリング計画.jpg
(第25回有識者会議 JR東海提出資料より)

ちょっと分かりにくいですが、流量調査やカメラによる監視予定地点は、大井川~西俣川沿いと、各沢が大井川~西俣へ合流する箇所に計画されています。

また、沢の生物調査は大井川や西俣川との合流地点から100mぐらいまでに限定されています。

生物調査困難.jpg


したがって、生物相調査が行われたのは大井川と西俣側沿いに限定されていることになります。そして各種の調査やモニタリングを実施または計画されているのも大井川~西俣川沿いと、荒川岳周辺の登山道沿いに限定されていることになります。

言い換えれば、荒川岳と西俣川の間、あるいは小河内岳付近についてはほとんど調査されていません。しかもこの範囲は、先に掲載した20年後の地下水位予測図によれば300m以上の地下水位低下が予測されているほか、渇水期にはかなり流量が減るとの試算結果も出ています。
沢への影響渇水期.jpg

高標高部よりも、むしろ流量が減少すると予測された沢の源流部のほうが、リスクが高そうです。

なにしろ辿り着くことさえ困難と主張していますし。
生物調査困難.jpg

無理に調査しろなんてことは言いません。

その代りに、環境への影響が予測されながら調査すら困難な地域というのは、改変予定地として著しく不適切であると申し上げます。

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