ツバクロ沢巨大残土発生土置場についての静岡市の見解に疑問 その2
静岡市(というか難波市長)による、ツバクロ沢発生土置場での生物についての論点のおかしいところ。

【令和6年6月18日 第18回静岡市中央新幹線建設事業影響評価委員会 資料1-2より】
●動物への影響を検討していない
静岡市(というか難波市長)は、盛土による動植物への影響を「大井川源流域の典型的な植生の喪失の可能性」の一点に絞り、ドロノキ群落を回避するから問題はないと結論付けています。

【JR東海による盛土計画案】
この理屈には非常に疑問があります。ドロノキ群落以外の部分について保全価値が低いと見なした理由が分かりません。
端的に言えば重要種であるオオイチモンジ(高山性の蝶)のエサだからドロノキは重要、という理屈になっているのですが、それでは果たして、オオイチモンジ以外に重要種は分布していないのでしょうか?
これは非常に重要な論点ですが、しかし実際にはブラックボックスになっていて、何も分からないから困ります。
例として鳥類について考えてみます。
環境影響評価書には、現地調査で確認された動植物のリストが掲載されています。こちらが確認された鳥類の一覧表。

「05」というのが燕沢発生土置場候補地。34種が確認されていますが、本当にこれだけなのかは分かりません。下の欄外にある通り、「希少種保護の観点から、重要な種は記載していない」ためです。
そしてアセス後に続けられた追加調査(JR東海が実施)によれば、このあたりのどこかで、イヌワシやクマタカが巣をつくり幼鳥が巣立っているのを確認しているとの記述があります。

【「JR東海 令和5年度における環境調査等の結果について」より引用】
これは見過ごせない。
イヌワシやクマタカはウサギなどの哺乳類、鳥類、ヘビなどを捕えてエサとする猛禽類です。そのため広い縄張りを必要とします。イヌワシの場合、一組のペアは数十平方キロメートルの縄張りをもつとのこと。したがって大井川源流部にイヌワシ2ペアとクマタカ4ペアが営巣しているのであれば、ツバクロ沢がいずれかのペアの行動圏に含まれていることは考えられます。
もしもツバクロ沢がイヌワシやクマタカの営巣地であったり、または近接しているのであれば、繁殖行動に致命的な影響を与えることになります。主要な狩り場として利用されている場合でも影響は大きいでしょう。
⇒詳しくはイヌワシ研究会のページなどをご覧ください。
しかし今のところ、ツバクロ沢発生土置場の造成が猛禽類の繁殖行動に与える影響については、オープンな形では議論されていません。だから、猛禽類への影響を回避できているのかどうか、さっぱり分からないのです。
そして猛禽類だけでなく、他の鳥類や両生類、昆虫などさまざまな動物に当てはまります。ちっぽけなサンショウウオがいたとしても、探し出して他の場所へ移すことも難しいでしょう。盛土の下敷きになってオシマイですよ。
ちなみに、静岡市の環境影響評価協議会の委員は地質・地盤の専門家ばかりで動物の専門家は参加していません。
●盛土の3割程度は天然林をつぶす
JR東海は、発電所建設工事で使用した跡地や植林地に盛土するから環境への影響は小さいと説明しています。最近の静岡市環境局の答弁でも、これを容認しているようです(6月29日静岡市議会 松屋清議員への答弁)。
だけど、これもなんだかオカシイと思われます。
JR東海作成の植生図に盛土範囲を重ねてみると次の通り。

ざっと見た感じでは、3割程度が「ジュウモンジシダ-サワグルミ群集」「ミヤコザサーミズナラ群集」に分類されています。
群集とは聞きなれない言葉ですが、要は「ジュウモンジシダやサワグルミが目立つ森林」「ミヤコザサやミズナラでが目立つ森林」ぐらいに考えてください。これは人工林ではなく自然林です。盛土の3割程度は自然林にまたがることになります。

さて、静岡市環境局環境創造課が平成29年に発行した「南アルプス 大井川上流の自然(執筆担当は増沢教授)」という報告書があります。静岡市が作成したものなので、市内の各図書館で閲覧できます。
この報告書では、上の植生図中に赤線を引いた「燕沢」北側、つまり盛土の下敷きになる森林について、次のような評価をしています。
【燕扇状地周辺は上流側の河岸段丘と一体となり、広大な平坦地となっている。この平坦地から南東斜面は自然度の高い常緑針葉樹と落葉広葉樹が混生した森林でる。樹高20m以上、胸高直径40㎝以上の大径木はウラジロモミ、ツガ、ミズナラであった。この斜面には、南アルプスでは個体数が少ないと言われているツガが分布している。亜高木層はカエデ類、サワシバ、リョウブなどの若齢林により構成されている。林床は厚く落葉・落枝が集積していて、土壌環境は良好と思われる。このような群落は稜線部まで続いており、広大な斜面全体が自然度の高い森に覆われている貴重な環境といえる。】
静岡市の議論では、その貴重な自然林を盛土にうずめることの是非について、何も検証してないんじゃないかと思います。
※なお、ジュウモンジシダやサワグルミ自体は普通種です。しかしこれらが育つ湿潤な林(渓畔林)は一般的に種の多様性が高い傾向にありますので、保全価値の高い植生の指標とみなせるのではないかと思われます。
●緑化しても「不自然」である。
自然の斜面には、安定したところもあれば不安定なところもあります。水が集まりやすくて常に湿っているところもあれば、乾き気味の所もあります。
そのような微妙な環境の違いが、そこに生えている植物の種類を多様にします。植物だってジメジメしたところを好む種もあれば、乾き気味のところを好む種もあります。安定した土地にどっかりと根を張る大木もあれば、石ころがゴロゴロしている不安定な土地に素早く侵入する種もあります。
ところが盛土というものは、当前ながら崩れないように設計するものです。そして内部に水が貯まることを極力防ぐために、雨水は素早く排水させることが求められます。

【リニア中央新幹線静岡工区 有識者会議 JR東海提出資料より】
したがって盛土は乾きやすく、安定した土壌条件になると考えられます。
ところで、上に出てきたジュウモンジシダというのは、沢沿いの湿った林内や水の滴る岩壁などに育つシダの一種です。そしてサワグルミという樹木は和名の通り、沢沿いなどの不安定な土地を好む種です。こういう種に代表される「ジュウモンジシダ-サワグルミ群集」とは、湿潤で不安定な環境を好む種が優先する場であると考えられます。
湿潤・不安定な環境を好む種で構成される林を、高い透水性・安定の求められる盛土上に再現することは困難ではないでしょうか。
こんな都合よく緑化できるとは思えないし、緑化しても「不自然」なのですが、静岡市(というか難波市長)はどうお考えなのだろう?


【リニア中央新幹線静岡工区 有識者会議 JR東海提出資料より】
●大規模盛土上の林を実際にみてみる
こちらは、静岡市葵区内にある新東名高速道路の大規模盛土です。盛土を造成してから15年余り経ってます。


静岡市中心部で日降水量150㎜の大雨が降った翌々日に撮影したものですが、盛土はだいぶ乾いています。排水溝にも水は見られません。周囲の山林内がグチャグチャにぬかるみ、方々で水が染み出しているのとは対照的です。
盛土に育っている樹木はアラカシ(植樹)、サクラ類(植樹)、コマツナギ(植樹)、アカメガシワ、ネムノキ、トウネズミモチ、ハゼノキ、ヌルデ、クサギなど、草本としてはススキ、クズ、イタドリ、マツヨイグサ類、セイタカアワダチソウ、カラムシ、ヤブマオ、スギナなど。植えられたものと、周辺から種が運ばれて育った者とが混じっているようです。植栽のアラカシやコマツナギを除くと、都会の空き地にも真っ先に侵入してくるような種ばかりです。
いっぽうで、水はけが非常に良いためか、湿った林縁や山林内でごく普通にみられる各種のシダ、ヘビイチゴ類、ヤブミョウガ、フユイチゴ、アオキなどはみられません。いずれも盛土に隣接する山肌には普通に見られるものですが、盛土上は苦手のようです。
このように排水溝が縦横に張り巡らされていますから、素早く乾くのでしょう。

土壌の乾燥に強い種、土壌条件を選り好みしない種は盛土上でも生育可能だと思われますが、湿潤な土壌条件を好む種の生育は、なかなか難しいのではないかと思いました。なお、この盛土周辺は放棄されたミカン畑や竹林ばかりですので、特に生態系保全上の問題はなかったと思われます。

【令和6年6月18日 第18回静岡市中央新幹線建設事業影響評価委員会 資料1-2より】
●動物への影響を検討していない
静岡市(というか難波市長)は、盛土による動植物への影響を「大井川源流域の典型的な植生の喪失の可能性」の一点に絞り、ドロノキ群落を回避するから問題はないと結論付けています。

【JR東海による盛土計画案】
この理屈には非常に疑問があります。ドロノキ群落以外の部分について保全価値が低いと見なした理由が分かりません。
端的に言えば重要種であるオオイチモンジ(高山性の蝶)のエサだからドロノキは重要、という理屈になっているのですが、それでは果たして、オオイチモンジ以外に重要種は分布していないのでしょうか?
これは非常に重要な論点ですが、しかし実際にはブラックボックスになっていて、何も分からないから困ります。
例として鳥類について考えてみます。
環境影響評価書には、現地調査で確認された動植物のリストが掲載されています。こちらが確認された鳥類の一覧表。

「05」というのが燕沢発生土置場候補地。34種が確認されていますが、本当にこれだけなのかは分かりません。下の欄外にある通り、「希少種保護の観点から、重要な種は記載していない」ためです。
そしてアセス後に続けられた追加調査(JR東海が実施)によれば、このあたりのどこかで、イヌワシやクマタカが巣をつくり幼鳥が巣立っているのを確認しているとの記述があります。

【「JR東海 令和5年度における環境調査等の結果について」より引用】
これは見過ごせない。
イヌワシやクマタカはウサギなどの哺乳類、鳥類、ヘビなどを捕えてエサとする猛禽類です。そのため広い縄張りを必要とします。イヌワシの場合、一組のペアは数十平方キロメートルの縄張りをもつとのこと。したがって大井川源流部にイヌワシ2ペアとクマタカ4ペアが営巣しているのであれば、ツバクロ沢がいずれかのペアの行動圏に含まれていることは考えられます。
もしもツバクロ沢がイヌワシやクマタカの営巣地であったり、または近接しているのであれば、繁殖行動に致命的な影響を与えることになります。主要な狩り場として利用されている場合でも影響は大きいでしょう。
⇒詳しくはイヌワシ研究会のページなどをご覧ください。
しかし今のところ、ツバクロ沢発生土置場の造成が猛禽類の繁殖行動に与える影響については、オープンな形では議論されていません。だから、猛禽類への影響を回避できているのかどうか、さっぱり分からないのです。
そして猛禽類だけでなく、他の鳥類や両生類、昆虫などさまざまな動物に当てはまります。ちっぽけなサンショウウオがいたとしても、探し出して他の場所へ移すことも難しいでしょう。盛土の下敷きになってオシマイですよ。
ちなみに、静岡市の環境影響評価協議会の委員は地質・地盤の専門家ばかりで動物の専門家は参加していません。
●盛土の3割程度は天然林をつぶす
JR東海は、発電所建設工事で使用した跡地や植林地に盛土するから環境への影響は小さいと説明しています。最近の静岡市環境局の答弁でも、これを容認しているようです(6月29日静岡市議会 松屋清議員への答弁)。
だけど、これもなんだかオカシイと思われます。
JR東海作成の植生図に盛土範囲を重ねてみると次の通り。

ざっと見た感じでは、3割程度が「ジュウモンジシダ-サワグルミ群集」「ミヤコザサーミズナラ群集」に分類されています。
群集とは聞きなれない言葉ですが、要は「ジュウモンジシダやサワグルミが目立つ森林」「ミヤコザサやミズナラでが目立つ森林」ぐらいに考えてください。これは人工林ではなく自然林です。盛土の3割程度は自然林にまたがることになります。

さて、静岡市環境局環境創造課が平成29年に発行した「南アルプス 大井川上流の自然(執筆担当は増沢教授)」という報告書があります。静岡市が作成したものなので、市内の各図書館で閲覧できます。
この報告書では、上の植生図中に赤線を引いた「燕沢」北側、つまり盛土の下敷きになる森林について、次のような評価をしています。
【燕扇状地周辺は上流側の河岸段丘と一体となり、広大な平坦地となっている。この平坦地から南東斜面は自然度の高い常緑針葉樹と落葉広葉樹が混生した森林でる。樹高20m以上、胸高直径40㎝以上の大径木はウラジロモミ、ツガ、ミズナラであった。この斜面には、南アルプスでは個体数が少ないと言われているツガが分布している。亜高木層はカエデ類、サワシバ、リョウブなどの若齢林により構成されている。林床は厚く落葉・落枝が集積していて、土壌環境は良好と思われる。このような群落は稜線部まで続いており、広大な斜面全体が自然度の高い森に覆われている貴重な環境といえる。】
静岡市の議論では、その貴重な自然林を盛土にうずめることの是非について、何も検証してないんじゃないかと思います。
※なお、ジュウモンジシダやサワグルミ自体は普通種です。しかしこれらが育つ湿潤な林(渓畔林)は一般的に種の多様性が高い傾向にありますので、保全価値の高い植生の指標とみなせるのではないかと思われます。
●緑化しても「不自然」である。
自然の斜面には、安定したところもあれば不安定なところもあります。水が集まりやすくて常に湿っているところもあれば、乾き気味の所もあります。
そのような微妙な環境の違いが、そこに生えている植物の種類を多様にします。植物だってジメジメしたところを好む種もあれば、乾き気味のところを好む種もあります。安定した土地にどっかりと根を張る大木もあれば、石ころがゴロゴロしている不安定な土地に素早く侵入する種もあります。
ところが盛土というものは、当前ながら崩れないように設計するものです。そして内部に水が貯まることを極力防ぐために、雨水は素早く排水させることが求められます。

【リニア中央新幹線静岡工区 有識者会議 JR東海提出資料より】
したがって盛土は乾きやすく、安定した土壌条件になると考えられます。
ところで、上に出てきたジュウモンジシダというのは、沢沿いの湿った林内や水の滴る岩壁などに育つシダの一種です。そしてサワグルミという樹木は和名の通り、沢沿いなどの不安定な土地を好む種です。こういう種に代表される「ジュウモンジシダ-サワグルミ群集」とは、湿潤で不安定な環境を好む種が優先する場であると考えられます。
湿潤・不安定な環境を好む種で構成される林を、高い透水性・安定の求められる盛土上に再現することは困難ではないでしょうか。
こんな都合よく緑化できるとは思えないし、緑化しても「不自然」なのですが、静岡市(というか難波市長)はどうお考えなのだろう?


【リニア中央新幹線静岡工区 有識者会議 JR東海提出資料より】
●大規模盛土上の林を実際にみてみる
こちらは、静岡市葵区内にある新東名高速道路の大規模盛土です。盛土を造成してから15年余り経ってます。
静岡市中心部で日降水量150㎜の大雨が降った翌々日に撮影したものですが、盛土はだいぶ乾いています。排水溝にも水は見られません。周囲の山林内がグチャグチャにぬかるみ、方々で水が染み出しているのとは対照的です。
盛土に育っている樹木はアラカシ(植樹)、サクラ類(植樹)、コマツナギ(植樹)、アカメガシワ、ネムノキ、トウネズミモチ、ハゼノキ、ヌルデ、クサギなど、草本としてはススキ、クズ、イタドリ、マツヨイグサ類、セイタカアワダチソウ、カラムシ、ヤブマオ、スギナなど。植えられたものと、周辺から種が運ばれて育った者とが混じっているようです。植栽のアラカシやコマツナギを除くと、都会の空き地にも真っ先に侵入してくるような種ばかりです。
いっぽうで、水はけが非常に良いためか、湿った林縁や山林内でごく普通にみられる各種のシダ、ヘビイチゴ類、ヤブミョウガ、フユイチゴ、アオキなどはみられません。いずれも盛土に隣接する山肌には普通に見られるものですが、盛土上は苦手のようです。
このように排水溝が縦横に張り巡らされていますから、素早く乾くのでしょう。
土壌の乾燥に強い種、土壌条件を選り好みしない種は盛土上でも生育可能だと思われますが、湿潤な土壌条件を好む種の生育は、なかなか難しいのではないかと思いました。なお、この盛土周辺は放棄されたミカン畑や竹林ばかりですので、特に生態系保全上の問題はなかったと思われます。
この記事へのコメント
数年前に、中国海警局とその動きを牽制する米軍の背後にオリオンの意識があることが伝わってきました。日本が伊勢神宮に外宮、内宮、伊雑宮のオリオンの三ツ星を祀って来なければ、世界はもっと平和だったかも知れないとよく思います。日本の公務員は国民のというより、長らく天照大御神の公務員でしたし。これも数年前、関西電力の元役員らと高浜町の元助役の原発工事の金銭不祥事が明るみになる少し前に、天照大御神の意識が「そろそろ(伊勢神宮を使って)日本を支配するのをやめた方がいいかしら?」なんて、持統天皇の意識と相談していたくらいです。リニアに乗って伊勢神宮に参拝に行きたいと言っていた政治家もいましたね。
川勝県政時に静岡の守護神のように見えた、難波市長の言動の変節の背後にはオリオンがあるように思えてなりません。