薬液注入工法による建設工事の施工に関する暫定指針

南アルプストンネル静岡工区の掘削では、破砕帯など地盤が悪く大量湧水の想定される箇所では、薬液注入を実施するそうです。

トンネル工事における薬液注入とは、水ガラスやセメントミルクなどの凝固作用のある薬液を地盤に注入し、隙間を埋めて湧水量を減らし崩れにくくしたうえで掘削を行うというもの。

薬品を地盤中に注入するので、地下水汚染のおそれがあることから、使用方法や処理方法については様々な取り決めがあります。

こちらが旧・建設省の出した通達でして、現在でも使われているようです。リニアの環境影響評価書にも記載されています。

昭和49年7月10日
各都道府県知事・各指定都市市長あて  建設事務次官通達
薬液注入工法による建設工事の施工に関する暫定指針について

https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/sgml/036/76000279/76000279.html

このうち「三の(四)の(イ)」は次の通り
掘削残土の処分にあたつては、地下水等としや断すること。
また「別添 三―七 残土及び残材の処分方法」にも次の記載があります。
薬液を注入した地盤から発生する掘削残土の処分にあたつては、地下水及び公共用水域等を汚染することのないよう必要な措置を講じなければならない。


この部分、今まで全然議題とされてきませんでしたが、実は計画を左右しかねない大問題かもしれません。


南アルプストンネル静岡工区での発生土量は約370万立米。そのうち9割程度を大井川沿いの平坦地(ツバクロ沢)に大々的に積み上げ、残りはもっと離れた5地点に分散して計画する計画です。

今月2日の時点で静岡県は、これらの発生土処分についてJR東海との対話は完了したと説明しています。
6.2発生土置き場.jpg

ただし欄外にある通り、対話完了は「通常土」に関してということになってます。ここでいう「通常土」とは土壌汚染対策法に基づく扱いを受ける汚染物質の含まれていない発生土を指します。そして注意が必要なのは、先の通達にある通り薬液の混じった発生土は土壌汚染対策法の扱いは受けないが,「通常土」とは別の扱いが必要ということ。用いられる地盤改良材には様々な種類がありますが、例えばセメント系薬剤の場合、固まった土砂はコンクリートになってしまうので、それを掘りだしたら産業廃棄物としての取扱いが必要になるようです。


ツバクロ沢およびそのた5地点に置かれる発生土は「通常土」を計画しています。

そして静岡県が「対話完了」とした盛土の構造や緑化計画等も、もちろん「通常土」を前提としたものです。

例えばこんなの。
盛土排水.jpg
6月2日 第20回地質構造・水資源部会専門部会 JR東海提出『【資料3-2】 発生土置き場について 』より

これはツバクロ沢の巨大盛土における排水設備の計画概要です。ツバクロ沢に置かれる発生土は「通常土」を想定しているので、盛土内部に水が浸透すること前提で設計されています。盛土の中に浸み込んだ雨水は排水管を伝って大井川に流されることになってます。

だけど薬液の混じった発生土を積むのであれば、通達に従って地下水や河川に薬液が漏れ出さないような配慮が必要となります。排水計画は全く違ったものが必要になるのではないでしょうか。

しかも薬液の混じった発生土がどのくらい生じるのかは、実際に掘ってみるまで分からないでしょう。トンネルの掘削現場で薬液注入を試みるたびに、地上では盛土の設計をやり直さねばならないのでは? ちなみに本坑の掘削断面積は約100㎡、先進坑は35㎡とされているので、100mあたり1.35万立米が出てくる計算となります。

薬液の種類にも左右されると思われますが、現時点で盛土計画の是非を判断することは、原理的に難しいのではないでしょうか。



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