静岡市によるヤマトイワナ保全事業に協力すればよい???
先日、18日に第23回 静岡市中央新幹線建設事業影響評価協議会が開かれ、希少種であるヤマトイワナ(※)の保全について話し合われました。
今回の会議、話が何やらおかしな方向に向かい始めたと感じました。
もともと環境影響評価の段階では、ヤマトイワナは確認されていませんでした。そのこともあって、環境影響評価書(2014年)では、ヤマトイワナという特定の種だけを対象にした保全措置を行うのではなく、イワナ類全般が住み続けることのできる環境を保全することに主眼が置かれていました。

(環境影響評価書より)
この場合、イワナ類はキーストーン種またはアンブレラ種という見方をされていることになります。
【キーストーン種】
生態系において、個体数が少なくとも、その種が属する生物群集や生態系に及ぼす影響が大きい種を、キーストーン種という。古代ローマの石橋には、石組を安定させるために橋のアーチの頂上に小さい楔(くさび)型の石がはめ込まれていた。この石は「キーストーン」と呼ばれ、橋全体から見ると小さな部品に過ぎないが、これが外れると石橋全体が崩壊してしまうことから、重要視される。これに例えて名付けられた概念のこと。
例えば、ラッコは大量のウニを消費するためウニの増殖は抑えられるが、ラッコがいなくなるとウニ個体群が大きくなり、海藻が過剰に採食され、荒廃して海底が裸地化する。その結果、海藻を採食しているウニ以外の生物も生息できなくなる。この場合のラッコがキーストーン種である。キーストーン種は食物連鎖の上位捕食者であることが多い。
https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&ecoword=%A5%AD%A1%BC%A5%B9%A5%C8%A1%BC%A5%F3%BC%EF
【アンブレラ種】
個体群維持のために、エサの量など一定の条件が満たされる広い生息地(または面積)が必要な種のこと。地域の生態ピラミッドの最高位に位置する消費者である。アンブレラ種が生育できる環境を保護することで、その傘下にあるほかの種の生育をも保全することができ、広い面積にわたる生物の多様性が保たれることになるという保全上の戦略的な考え方。しかし、キーストーン種とは異なり、アンブレラ種が生態系から失われてもその生態系に大きな影響がおよぶとは限らない。
日本では一般的にツキノワグマやヒグマ、オオタカ、イヌワシなど大型の肉食哺乳類や猛禽類がアンブレラ種と言われることが多いが、保全生態学上は、大型肉食哺乳類の場合は、他の中小型哺乳類の生息地選好性との関係が必ずしも解明されていないことから、議論の余地があるとされている。
https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=99
一般財団法人環境イノベーション情報機構
ヤマトイワナだろうがニッコウイワナだろうが、イワナ類が存続してゆくためには、生息地となる川の流量と水質、底質、エサとなる水生昆虫類が現状を維持してゆかなければならない。またイワナ類が存続してゆけば、それを捕えて食べる肉食動物の生息環境も維持されることになる。こうして渓流の生態系が維持される、という理屈になります。
この方向性自体は別に間違ってはいません。
ところが、静岡市による調査でヤマトイワナの存在が確認され、次いでJR東海による調査でも確認されたことで、どうも話が怪しくなってきました。
冒頭の第23回 静岡市中央新幹線建設事業影響評価協議会では、大雑把に言えば静岡市が行う”純系の”ヤマトイワナの個体数回復事業にJR東海が協力すればよい、という方向性になってきたのです。
ニッコウイワナとの雑種ではない”純系の”ヤマトイワナ個体群の保全という観点だけならば、そのような考え方もありでしょう。しかし生態系―生物同士のつながり―という観点では、いささか疑問。
サカナを捕えて食べる動物(カワネズミやヤマセミなど)にとっては、純系だろうが雑種だろうが、そんなのは知ったこっちゃない(たぶん)。こうした種の保全にはサカナの豊富な渓流の維持が大前提になりますので、南アルプスの生態系保全という観点では、渓流環境そのものを守らなければ意味がないでしょう。”純系の”ヤマトイワナ個体群だけを守ってればよいという話ではないと思います。
ちなみにカワネズミは静岡県版レッドデータブック(RDB)で準絶滅危惧種、ヤマセミは絶滅危惧ⅠB類でありヤマトイワナ同様の保全が必要。
また、”純系の”ヤマトイワナ個体群の保全という観点に絞ってもなんだか疑問。
静岡市の案では、

流量減少の可能性が低く、交雑が進んでいないと予測される場所について、交雑を防止しつつ、ヤマトイワナの生息環境の保全を行うことが、代償措置として有用かつ機能すると考えられる。
とのこと。ヤマトイワナの生息する沢のうち、流量減少の起きにくいだろうと予測された場所で純系のヤマトイワナを保全させれば、他の場所で流量減少が起きても大井川水系全体での個体数はさほど減らないという理屈です。
だけど流量減少を事前に正確に予測するのは無理ですよね。。。予測可能ならば岐阜県瑞浪市での水枯れなんて起きなかったのですよ。
それに「リニア工事による生息数の減少」を上回る形で「将来の交雑によるヤマトイワナの生息数の減少の防止対策」を実施することで、代償措置を行うとも書いてありますが・・・
地元漁協では20年くらい雨から、県の水産試験場の協力を得ながら、ヤマトイワナ個体数回復を目指して活動を行ってきました。
https://fish-exp.pref.shizuoka.jp/04library/news/20060606.html
しかし文末に示すように個体数回復には至らず、2004年版RDBで絶滅危惧ⅠB類だったものが、2020年版RDBでは絶滅危惧ⅠA類へと引き上げられています。
20年かけても個体数増加を実現できなかったのに、これから行うとする「将来の交雑によるヤマトイワナの生息数の減少の防止対策」が功を奏すなどと言えるものなのでしょうか?
(※)大井川上流部にはもともとヤマトイワナが分布していた。しかし高度成長期以降、乱獲や電源開発にともない個体数が減少。そこでイワナを放流することになったが、当時はまだヤマトイワナの養殖技術が確立されておらず、手に入りやすかった別亜種で静岡県内には生息していないニッコウイワナが放流されてしまった。両種は分類上はそれほど離れていないため容易に交雑が進み、現在は交雑魚が多くなってしまい、純粋なヤマトイワナはごく少なくなってしまっている。

(2020年版 静岡県RDBより)
今回の会議、話が何やらおかしな方向に向かい始めたと感じました。
もともと環境影響評価の段階では、ヤマトイワナは確認されていませんでした。そのこともあって、環境影響評価書(2014年)では、ヤマトイワナという特定の種だけを対象にした保全措置を行うのではなく、イワナ類全般が住み続けることのできる環境を保全することに主眼が置かれていました。
(環境影響評価書より)
この場合、イワナ類はキーストーン種またはアンブレラ種という見方をされていることになります。
【キーストーン種】
生態系において、個体数が少なくとも、その種が属する生物群集や生態系に及ぼす影響が大きい種を、キーストーン種という。古代ローマの石橋には、石組を安定させるために橋のアーチの頂上に小さい楔(くさび)型の石がはめ込まれていた。この石は「キーストーン」と呼ばれ、橋全体から見ると小さな部品に過ぎないが、これが外れると石橋全体が崩壊してしまうことから、重要視される。これに例えて名付けられた概念のこと。
例えば、ラッコは大量のウニを消費するためウニの増殖は抑えられるが、ラッコがいなくなるとウニ個体群が大きくなり、海藻が過剰に採食され、荒廃して海底が裸地化する。その結果、海藻を採食しているウニ以外の生物も生息できなくなる。この場合のラッコがキーストーン種である。キーストーン種は食物連鎖の上位捕食者であることが多い。
https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&ecoword=%A5%AD%A1%BC%A5%B9%A5%C8%A1%BC%A5%F3%BC%EF
【アンブレラ種】
個体群維持のために、エサの量など一定の条件が満たされる広い生息地(または面積)が必要な種のこと。地域の生態ピラミッドの最高位に位置する消費者である。アンブレラ種が生育できる環境を保護することで、その傘下にあるほかの種の生育をも保全することができ、広い面積にわたる生物の多様性が保たれることになるという保全上の戦略的な考え方。しかし、キーストーン種とは異なり、アンブレラ種が生態系から失われてもその生態系に大きな影響がおよぶとは限らない。
日本では一般的にツキノワグマやヒグマ、オオタカ、イヌワシなど大型の肉食哺乳類や猛禽類がアンブレラ種と言われることが多いが、保全生態学上は、大型肉食哺乳類の場合は、他の中小型哺乳類の生息地選好性との関係が必ずしも解明されていないことから、議論の余地があるとされている。
https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=99
一般財団法人環境イノベーション情報機構
ヤマトイワナだろうがニッコウイワナだろうが、イワナ類が存続してゆくためには、生息地となる川の流量と水質、底質、エサとなる水生昆虫類が現状を維持してゆかなければならない。またイワナ類が存続してゆけば、それを捕えて食べる肉食動物の生息環境も維持されることになる。こうして渓流の生態系が維持される、という理屈になります。
この方向性自体は別に間違ってはいません。
ところが、静岡市による調査でヤマトイワナの存在が確認され、次いでJR東海による調査でも確認されたことで、どうも話が怪しくなってきました。
冒頭の第23回 静岡市中央新幹線建設事業影響評価協議会では、大雑把に言えば静岡市が行う”純系の”ヤマトイワナの個体数回復事業にJR東海が協力すればよい、という方向性になってきたのです。
ニッコウイワナとの雑種ではない”純系の”ヤマトイワナ個体群の保全という観点だけならば、そのような考え方もありでしょう。しかし生態系―生物同士のつながり―という観点では、いささか疑問。
サカナを捕えて食べる動物(カワネズミやヤマセミなど)にとっては、純系だろうが雑種だろうが、そんなのは知ったこっちゃない(たぶん)。こうした種の保全にはサカナの豊富な渓流の維持が大前提になりますので、南アルプスの生態系保全という観点では、渓流環境そのものを守らなければ意味がないでしょう。”純系の”ヤマトイワナ個体群だけを守ってればよいという話ではないと思います。
ちなみにカワネズミは静岡県版レッドデータブック(RDB)で準絶滅危惧種、ヤマセミは絶滅危惧ⅠB類でありヤマトイワナ同様の保全が必要。
また、”純系の”ヤマトイワナ個体群の保全という観点に絞ってもなんだか疑問。
静岡市の案では、
流量減少の可能性が低く、交雑が進んでいないと予測される場所について、交雑を防止しつつ、ヤマトイワナの生息環境の保全を行うことが、代償措置として有用かつ機能すると考えられる。
とのこと。ヤマトイワナの生息する沢のうち、流量減少の起きにくいだろうと予測された場所で純系のヤマトイワナを保全させれば、他の場所で流量減少が起きても大井川水系全体での個体数はさほど減らないという理屈です。
だけど流量減少を事前に正確に予測するのは無理ですよね。。。予測可能ならば岐阜県瑞浪市での水枯れなんて起きなかったのですよ。
それに「リニア工事による生息数の減少」を上回る形で「将来の交雑によるヤマトイワナの生息数の減少の防止対策」を実施することで、代償措置を行うとも書いてありますが・・・
地元漁協では20年くらい雨から、県の水産試験場の協力を得ながら、ヤマトイワナ個体数回復を目指して活動を行ってきました。
https://fish-exp.pref.shizuoka.jp/04library/news/20060606.html
しかし文末に示すように個体数回復には至らず、2004年版RDBで絶滅危惧ⅠB類だったものが、2020年版RDBでは絶滅危惧ⅠA類へと引き上げられています。
20年かけても個体数増加を実現できなかったのに、これから行うとする「将来の交雑によるヤマトイワナの生息数の減少の防止対策」が功を奏すなどと言えるものなのでしょうか?
(※)大井川上流部にはもともとヤマトイワナが分布していた。しかし高度成長期以降、乱獲や電源開発にともない個体数が減少。そこでイワナを放流することになったが、当時はまだヤマトイワナの養殖技術が確立されておらず、手に入りやすかった別亜種で静岡県内には生息していないニッコウイワナが放流されてしまった。両種は分類上はそれほど離れていないため容易に交雑が進み、現在は交雑魚が多くなってしまい、純粋なヤマトイワナはごく少なくなってしまっている。
(2020年版 静岡県RDBより)
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