環境アセスメントの混乱はどこから? ー静岡新聞社説から考えるー

今日(1/20)静岡新聞の社説に、「リニア環境評価 拙速対応は禍根を残す」とありました。
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簡潔にまとめると、
 
環境影響評価審査会の県側委員から、JR東海の提出した方法書の内容に不備が多く、再度審議の場を設けるべきだと意見が出されたのに対し、JR東海側は法律にのっとっていれば問題はないとして難色を示している。県内区間となる南アルプスの環境を次世代に残すには皆が知恵を出し合うべきである。
 
といったものです。長野県では、もう一度審議がおこなわれることになったようですが…。
 
一見、あたりさわりのない正論のように見えますが、重要な視点が欠けていると思います。それは、
 
なぜ、不備の多い方法書が提出され、各地で混乱するような事態になっているのか。
 
という点だと思います。
 
そもそも、日本の環境影響評価(アセスメント)制度というのは、これまで事業の立地場所の選定や事業の必要性については問うていませんでした。
 
すでに事業の立地場所、工法、工期等が決まった段階において、その事業を行った際の環境への影響を予測するための調査・手法について記載した文書(法律用語では図書と呼ぶ)が環境影響評価方法書です。そして調査・予測結果と、それに基づいたより影響の少ない事業の進め方を事業者自らが考案し、まとめて記載したものが準備書という文書です。準備書について一般・自治体から寄せられた意見を踏まえ、最終的に出されるのが評価書です(沖縄県庁にこっそり運び込もうとしたのがこれ)。
 
日本の環境影響評価制度はこのような手順になっています。事業計画がまとまってから行われるため、事業アセスメントとも呼ばれます。
 
しかしこれでは、事業の立地場所そのものに大きな問題が内在していた場合は、小手先の環境対応に終わってしまい、重大な影響をさけることは困難になります。
 
この点をどうにかしようというのが戦略的環境アセスメント(SEA)という概念です。戦略的環境アセスメントでは、まだ事業計画が確定していない段階で、簡略的な環境調査をおこなったりして事業位置の選定に役立てたり、場合によっては環境への影響という視点から、事業の必要性そのものを問うようなこともなされます。
 
欧米や韓国では10年以上前から導入されていたようですが、日本では昨年4月の環境影響評価法改正によって、事業者に対して方法書作成以前に「配慮書」というものを作成させることによって行われることになりました。この配慮書については、日本版SEAなどと呼ばれることもあります
 
また、2008年制定の生物多様性基本法では、生物多様性に影響を及ぼす可能性のある事業をおこなう事業者等は、計画段階から環境への影響を考慮するよう定めています。これもSEAの概念です。
 
 
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リニア中央新幹線の方法書が各地で問題視されているのは、この制度が十分に機能していないこと、そしてSEAを行うべき段階、すなわち計画段階での環境影響を考慮すべき立場であった国土交通省中央新幹線小委員会(委員長:家田仁東大教授)のいい加減な審議にも発端があると思います。

リニア中央新幹線のルートを巡っては、諏訪湖から木曽川に沿って名古屋に至るAルート、諏訪湖から伊那谷を通るBルート、南アルプスを貫通するCルートが候補に挙げられていました。JR東海は当初より南アルプス貫通ルートを主張していましたが、その理由は時間短縮による費用対効果の一点でした。
 
中央新幹線小委員会は、建設の是非を問うのと同時にルート選定の責任をも担っていましたが(本当に責任を感じていたのであろうか?)、ルート選定にはSEAの手法を用いるとされていました(委員長の家田氏は、日本版戦略的環境アセスメント導入ガイドラインの作成に携わった一員)。ところがこの委員会においては、環境面については全く審議することなく費用対効果の一点だけで南アルプスルートを決定しました。JR東海の主張すなわち環境面は完全無視という主張をそのまま委員会としても受け入れ、後々の事業アセスメントで小手先の対策をすればよいという見解です。
 
ところが配慮書においても方法書においても、詳細な事業内容はいっさい記載されていません。事業の進め方さえ決まっておらず、そもそも事業の立地そのものに問題があるのかさえ、定まっていないという状況ですの、本来ならばSEAを始める段階にあるべき状況です。少なくとも、方法書における生物種リストのいい加減さ、調査・評価のあいまいさについては、審議のしようがないほど大雑把です。リニア推進の名古屋市の審議でも、「方法書作成以前のレベルでは?」という意見が見られます。
 
また、時速500キロでの超高速走行、強力な電磁波の問題、エネルギー消費、ほとんど地下方式…など、前代未聞の計画ですから、これまでの事例で対応できない環境問題も多々浮上してくることは予見でき、中央新幹線小委員会におけるSEAとして対応できたはずですが、そのような基本的・根本的な点まで地方での事業アセスメントにまわしてしまいました。

そうした「基本的なことすら影響評価を行っていない段階」であるのにも関わらず、JR東海は「詳細は準備書で」という態度を各地の審議で示しています。SEAの前段階から一足飛びに準備書に進もうとしているわけです
 
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関係する行政機関の姿勢にも疑問があると思います。
 
都県や市の環境影響評価審議は、もともと、ある程度計画が固まった方法書について意見を交わす場、事業アセスメントを審議する場です。具体的な騒音レベルだとか生物の分布だとか…。この段階では既に立地条件についての是非を問えるかどうかは微妙なところです。このような場にSEA以前レベルの事業計画に基づいた方法書が提出されたのですから、混乱が生じているのだと思います

というわけで、混乱の元凶はいい加減な方法書を作成したJR東海だけでなく、
SEAを放棄した国土交通省中央新幹線小委員会
立地場所そのものに問題があるような、いい加減な方法書が出された場合に対応できない各地の環境担当行政
 
にもあると思います。
 
本気で環境を保全するつもりなら、文句ばかり言っておらず、再提出させればいいはずです。
 
 
9月にJR東海は、沿線の自然・環境条件や環境配慮の概念を記載した配慮書を作成しました。建設指示からわずか3ヶ月程度で作成できたわけですが、なぜこの程度のものを中央新幹線小委員会に提出しなかったのか、委員会側も求めず、何も審議を行わなかったのか、大いに疑問があります。


なお、国土交通省中央新幹線小委員会を含め、各地の審議録のリンク集をこちらに作成しました。
中央新幹線小委員会の審議はあまりにも杜撰だと思います。